さぶこんシャス

土曜の夜にひそひそと貪り、あとは眠るだけ。

「(猪木さん)見つかんないっスねwww」ウン、知ってた。―『アントニオ猪木をさがして』観てきたよネタバレ感想

「さがす前に見つからないこと考える馬鹿いるかよ!(劇場)出てけ!コラ!」(画像公式より)

あらゆる方面からの不評は聞こえていましたけど、多分あんまり観ている人自体が少なかったのか、私の知人関係が狭小なのか(それはそう)、ほとんど私の耳と目にネタバレは飛んでこなかったので、「あ、終わっちゃうかもしんねえ」という電波を察知して、今ごろ見に行きました。劇場作品『アントニオ猪木をさがして』。

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結論から言うと

 

  • 「(プロレスファンだったら)2000円でそういうイベント観たと思えばよかった」
  • 「万人向けに作られていると思うが、もちろん万人にはおすすめできない」
  • 「ヤスケンの面白いところとか、全裸とかも観られません。後藤洋央紀さんの面白いところは観られます」

 

で、私個人の感想をいくつかアウトプットした中で、一番スッと腹落ちしたのは…

 

「これは深夜向けに作られたショートドキュメンタリー『アントニオ猪木をさがして』の、大ボリュームのDVD(古)特典インタビュー映像付きバージョンを、映画館でみんなで観たんだな。それはお得だなあ」

 

というもの。

 

つまり、観てよかった。とは思いました。チケット代返せとか、クソぶっかけてやるとかは全く思いませんでしたね。金と時間を返せ的な体験には耐性があり、プロレス会場で鍛えられているので…。

 

まあもう終わる映画だし、テレビでやるとは思えないのでノー配慮でいきたいところですが、一応週プロも取材に来ないどインディーとはいえ、ここは魔境インターネッツですからね。AIの要約元に使われるとも限らないので、以降ネタバレ注意です。

 

めちゃくちゃ観る人を限定した作りだった

まず、この作品はアントニオ猪木の人生をなぞるようなドキュメンタリーにはなっていません。ご存知のように、昭和の国民的大スターのアントニオ猪木の人生については、現役時代、引退後、晩年、没後と、ありとあらゆるTVドキュメンタリー、実話本、暴露本で記述され尽くしているからです。わざわざ今、アントニオ猪木をなぞるような作品を、劇場公開する理由がないので。2時間ではとても無理ですしね、2006年公開の映画『力道山』のように、途中でバサッといなくなってしまう理由がないとね。馬場さんも難しそうだよね。そういう意味では、三沢光晴はできることになる。誰か作ってくれないかな。ちょうどいま、フォン・エリック家の映画『The Iron Claw(原題)』も公開されているしね。

 

前置きが長くなりました。

 

要するに、ありとあらゆる、かつ、よくできた、既存のTVドキュメンタリー、実話本、暴露本を観たり、読んだりしてきた、いわゆる“猪木信者”の皆さんには、全く見どころのない映画と言えます。猪木信者ですらない自分でも、知っている話しか出てきませんでした。だからそういうものを期待する猪木信者の皆さんの知識、歴史が紡いだ集合知には全く叶いません。たった2時間の、娯楽映画ですからこれは。皆さんのイノキを表現するには、全くボリューム不足な時点で、お察しください。

 

では、誰に向けているのか。それはおそらく以下です。

  • 猪木現役世代だけど、プロレスを観ていたのは親の影響で子供時代、または多感な学生時代という方々。猪木引退で少し戻ったけど以後業界には無関心
  • 世代的に若く、猪木のことは知っているけどダーおじさんとしてしか知らなくて、今の新日本プロレスブームを楽しまれている方々

これマジ。もうね、この2属性のいずれかを持っていない方には、全くおすすめしません。劇場で寝ている方を観ました。そりゃあそうだよね。人に連れられて観るようなものではなさそう。作品の話を振られて、ギリギリ「あ、あれ観るの?ふーん…いいんじゃないすか。私は面白かったです“けどね”」と返してあげられそうな人は以下。

  • 出演者のファン(安田顕、福山雅治、有田哲平、神田伯山、新日本プロの皆さん)

ほんと、滝◯秀明とか特別出演していたら、ないし例のシーンがインサートされたがためにスペシャルサンクスとかに名前を連ねていたら、今ごろ、どうなっていたことか…。

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DVD特典インタビュー映像付き版を間違えて流しているのかと

いやほんとそうなのよ。福山雅治と、アントニオ猪木をちゃんとブラジルまでさがしにいったドキュメンタリー部分は、本当に期待感はあったし、「NHKかな?」っていう出来だった。あれ、めっちゃちゃんと取材してきたじゃん!って思ったんだけどね。実際は、そこまででした。ブラジルのところと、あとはまー、妥協して巌流島のところかな、ドキュメンタリーっぽいのは。原悦生カメラマンのキューバの話とかは、ドキュメンタリーっていうかやっぱり特典映像インタビューなんでね。まあご新規さん向けには、藤原組長と、藤波辰爾の話もギリギリドキュメンタリーか(私たちは何億回聞いたかわからない話なので)

 

ただ、それをわざと崩しに来るんです、オカダ・カズチカと棚橋弘至と安田顕と神田伯山と有田哲平が。

 

しかもその話がどれも、「自分の思い出」なんだよな。だって誰もアントニオ猪木とまともに喋ってないんだもん。だからこれは、「映画に必要なピース」じゃなくて、「特典映像インタビューなんだな」と、かなり早い段階で脳が判断しました。

 

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あえてしなかった。を繰り返してできている。それも猪木イズム

例えば、『炎のファイター』はTVドキュメンタリーだったらもっと色んなところで流れていたと思うんです。でもこの映画では流れません。さらに言うなら、皆さんの想像している『炎のファイター』も流れません。ちゃんと劇場版作品の事前情報をチェックしている人なら気がつくんですが「主題歌「炎のファイター〜Carry on the fighting spirit〜」(福山雅治) 」というやつです。

 

あと、「1-2-3-ダー!」もそうです。最後の最後まで我慢してください。いわゆる近年流行りの、「モメンタム」ってヤツです。これがTVショーとの違いってやつですね。

 

だから気をつけてください、オカダが無邪気に「見つかんないっスねwww」とか言ってて呆れても、終盤に寝ないでください、あと尿意に耐えきれずスタッフロールでトイレにいかないでください。私が観に行った日には、案の定50-70代とお見受けする紳士淑女ばかりだったので、そこがかなり心配でした。実際、みんなわかっていたので。この構造を察していたので、誰一人席を立たず。後楽園ホールの出口よろしく、終幕と同時にトイレは大渋滞となりました。

 

そういう意味で、前述のように当時の猪木をリアルに知る人々が出てこないのも同じなんですよね。「え、猪木の映画作るのに、この人に話を聞きにいかなかったの?」(だってドラゴンは当然として、もう一人の身近な証言者が藤原組長だぜ?)てなると思うんですけど、それたぶん狙ってるんですよね。

 

いや、晩年の猪木のことに詳しい人なら、その人たちが誰も出てこない理由は他にも色々類推解釈できると思いますが。もしかしたらそっちが理由で、こんなディレクターズカット&特典映像みたいな構成になった可能性についても、否定はできない。いや51:49くらいの可能性で、あると思いますけど…。

 

作中でも藤波が言うんですけど、猪木って期待を絶対に裏切るんですよね。同じことを二度やるのが我慢ならない。そんな猪木が、1年後に公開される作品で、期待通りの作品を出すわけないって。そんな猪木イズムの誤解釈継承が感じられなくもなかったです。

 

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問題のドラマパートについて。結局は安田顕をどう使うかの手段でしかない。

で、なんやドラマパートが批判されているっぽいですね。確かに「昭和より平成よりのプロレスファン」の私には、まったく要らなかったです。その分安田顕と原悦生の対談映像を200%にしてくれよと思ったんです。

 

でも、こちらも作中「この映画に出演依頼をいただいて、『何をしますか?』って相談された」的なことを投げっぱなしジャーマンされた聞かれたと、安田顕の初回登場シーンで出てきたんスよね。

 

つまり、この映画を作り始めた時点では、安田顕をどう使うかは考えずにキャスティング、正しい意味で使いますけどブッキングしたんですよね、制作側は。で、安田顕は俳優なので、当然演技で見せる以上のことはない。実際は対談も生のリアクションが観られてよかったんですけど。

 

で、ドラマが3つ生まれたと。で、このドラマはやっぱり3ついらないんです。安田顕が出てくるのは3つ目だけなんで。あと2つは、フリなんです。作中にオチもなければ感動もないので。映画を見てから見つけたんですけど、キッダーニ男爵がTwitter(現X)で批判厨に向けてブチギレポストしてたのは、やっぱり1本目のドラマあたりだよね。だから一番最初に書いた、ターゲット。つまり親の影響で家庭のTVでプロレスを観ていた、つまり金曜20時世代の皆さんに向けて作っていますよー。というアピールが存在理由。それ以外の世代の皆さんは、そりゃポカーンです。

で、これは分かる人はわかると思いますけど、同じく「TV番組を劇場版に無理くり作った」でおなじみ『ゲームセンターCX THE MOVIE 1986 マイティボンジャック』のドラマパートとまったく同じ手法なんすわ。

『ゲームセンターCX THE MOVIE 1986 マイティボンジャック』作品情報より

まあ、作品のターゲットも、作った人の世代も大体似ているでしょうからね。でもちょっと似せすぎましたねコレ。いわゆる、邦画によくある手法を使ったと考えましょう。確かによくあります。今回も、「え、この少年もしかしてヤスケン?」って思いますけど、多分関連性まではないんですよね。あくまで視聴者世代のペルソナです。

え?2つ目のドラマについて?2つ目は…ごめんなさいコメントもできないです。

※バカになれの詩って、当時の普通の高校生が知ってるもんかしら(「この道を行けば~」は引退後数年は流石に有名でしたけどね、バラエティ中心に)、と思ったけど、3つ目のドラマまで観ると、「ああ~(納得は行かないけどまあウン)」ってなります。あとバカになれ~は当時まだ発表されてないとかいうファクトチェックっぽい指摘も後日見つけましたが、ファクトチェックとかしてたらブログは書けないからねンムフフ…

 

田口監督は普通の役者です。いつかインディー映画の主演に抜擢されて『カメラを止めるな!』みたいな感じになってほしい。でも本当は、さっさとブチギレてジュニアの怖い壁としてライガーさんや4虎さんの代わりをやってほしいな。もう無理なのかな、俳優業上手すぎるし。後藤洋央紀さんは、やっぱり普段マイクだとわざわざだみ声にしているくらいきれいな声なので、普通に肉体派俳優として、武田幸三さんみたいなならないかなって思いますね、毎年大河ドラマの武将役に呼ばれて。消灯とかしてないで日本版バティスタ目指そう。

 

結局のところ、ドラマパートは「大人の事情で入れました」っていう姿勢は視聴者にも伝わってくるんです。でも、それをわざわざヤスケンの言葉を使ってドラマパートの前に説明したのは、映画だったら絶対しない、24時間テレビのドラマみたいというか、ずるいよなって思いました。やっぱりこのシーンだけでも本当のDVD特典映像にすべきだったと思う。そういう気持ちも込めて、一番最初の感想が生まれているという。

 

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オカダの笑顔はやっぱりかわいいし、海野は呼ばれた理由がわかるなって。

現代のレスラーたちの話は、とくに棚橋弘至のところはもう何兆回聞いたかわからん話です。猪木問答を劇場シアターで見る、というズンドコマニア以外喜ばない演出があったけど。で、棚もまあ~猪木のこと喋るの嫌そうですわ。いい思い出も少ないだろうしね。武藤敬司akaムトちゃんよろしく、最終的に自分をあげる話になっちゃうので。海野に「猪木さんより、自分にとっては棚橋さんのほうがずっと偉大に感じるんスよね」って言われて、ホクホクニッコニコでご飯をむしゃむしゃ食べるふっくらかわいいでかかわ棚橋弘至パートはフェードアウトしていく。

 

しかし

 

この海野翔太のコメント力はすごい。

この男、やはりいつか地上波放送を経て全国的知名度を手に入れそうな気がする。別にすごいことを言ったりはしてない。そこはかつての名レスラーたちと同じだ。しかし、凄みがある。現代の若者プロレスラー、いや全プロレスラーを観ても、ほとんどがアスリートによくある素直なコメントでしかない。でも、いまの業界でこれができる選手がどれだけいるだろうか。超存在意義のわからない棚橋弘至と海野翔太の食事シーンなのだが、もしかしてこのシーンを撮りたくて作ったんだろうと思う。棚橋弘至すらもダシに使うとは、これもパネルを外す戻すのシーンでへそを曲げた猪木のいじわるなのかも。

 

そして全編通してオカダ・カズチカの使い方である。

 

オカダ・カズチカが現代プロレス、日本で最高のプロレスラーで、しかも時代が時代なら、別に猪木に劣るようなレスラーじゃないんだオカダは、という制作者の意志を感じる。おそらく、これも猪木信者がこの映画観て納得いかない部分だろう。

 

現代プロレスへの敬意、安田顕・神田伯山・有田哲平、そして福山雅治といった一般人に現代プロレスへの関心をもたせる存在への敬意が溢れすぎている。これって、ここ10年くらいの東京ドーム大会前、またはG1にゲストを呼ぶとき、どうしたってプロレス側が「来ていただいてありがとうございます…」という態度と比例している。まあそりゃあいまのテレビ朝日と新日本の関係性じゃあね。これも猪木信者や、一部のプロレス盲信者には気に入らないところだと思う。でも猪木さんも現役時代は他ジャンルの人には敬意を持って接してたからね

 

これが、作品自体の全体構成のアンバランスさと、劇場版ドキュメンタリー映画というカテゴライズのミスと相まって、何かしらの不評を引き出しているものだと分析しました。観終わる前には、なんとなく理解しました。

 

ーーー

じゃあこれ、DVD特典には何を付けてくれんだい?ンムフフ…!

というね。

 

だってこれ特典映像バージョンだもん現段階ですでに。

 

逆の発想で、福山雅治ナレーションパートだけをまとめて(たぶん30分くらい)出してくれたら、めっちゃ良さそう。あと福山雅治にもブッキングされた経緯の部分、安田顕みたいに喋らせてほしい。

 

あとは、なんといっても原悦生と安田顕の対談、あとめっちゃ少なかったからなんでヤスケンと対談させたんやろと思いつつめっちゃいいコメントくれたパキスタンの英雄で「折ったぞ(脱臼らしい)」で有名なアクラム・ペールワンの親戚、アビッド・ハルーンとの対談シーンでしょうね。絶対もっと出せないことを喋ってそう。

※上の話からもわかるように、たぶんヤスケンはドラマシーンなくても対談だけで十分役割を果たしてたんだよね。もしかして対談は別の人が演る予定だったのかな…。逆に福山雅治が来るまでナレーション担当だったんでしょどうせ…。TPG両国を思い出すなあ(ダブルミーニング)

 

「アントン探してX十年、現地ブラジル取材ドタバタ滞在記」でもいいですけどね。もう映画の中でもうまく言ってない感じが出てて、最高でした。ドキュメンタリーでしたよあそこはちゃんと。無理やり日本人だけがバーっと現地の関係ない皆さんに話しかけるとコトとかもう最高。

 

あとは、オカダ・カズチカのインタビュー全編とか。言葉で語る「オカダ・カズチカ×アントニオ猪木in東京ドーム」も、もっと聞きたい。あれだけ無邪気に猪木について語れるのは、もう孫世代でガチで接したこともないオカダ以降の世代で、業界の頂点を取った人間にしかできないことだから。もうジャイアント馬場か、オカダかのものいいよ。

 

もう7000字超えているんだけど、普通に考えてこの話を一緒にする相手がない(同じ映画を見た人がいない&プロレス友だちがいない)私でも、これだけいいたいことがあるわけだから、それはもう十分に2000円と2時間の価値はあったということ。

 

納得いかない人がいるのも当然。だって猪木信者の皆さん、当時猪木の試合を観ていて、本当に毎回納得したことなんてあるの? 猪木が格闘技のイベントにゲストに来て、やってほしいことだけやって帰ったことがあったかしら? 猪木に心酔していたレスラーたちは当時猪木と接していて、いつもいつも、この映画を見た私たちに近い体験や感情を持っていたのでは?そう考えると、本人がこの世からダーしちゃったいま、本当に貴重な体験。

 

つまり、この映画に憤ったあなたこそ真の猪木信者。そういう作品ですよコレは(暴論)。いやアントンならそんなこととか全部無視して、「とりあえずブラジルいけッ!!」っていいそうだからね。ブラジルで全部考えて、出てくれそうな人全員に果たし状でも送って(それは『1・2の三四郎2』イズム)、それで帰ってきたのがヤスケンとアリペイと神田伯山(テレビ朝日経由)だったのかもしれない。なぜか間違えて送った福山雅治が出てくれて「あれヤスケンにナレーションお願いしてたのにどうしよう…(あ、対談やってもらうか)」ってなったのかもしれない。

 

でも、十分にアントニオ猪木を感じることができましたよ。予定調和ばかりの邦画、TV番組ばかりのいまだから、こんな理解不能な作品があってもいいじゃない。

 

とりあえず、来年「第2回 邦キチー1グランプリ」があったら応募しておきますね。

https://comic-ogyaaa.com/episode/14079602755150385506